11.『虐待・体罰・暴力の連鎖』の仕組み【認知的不協和理論】
*『不適切な養育(マルトリートメント)』と『脳』の関係
具体的に『不適切な養育(マルトリートメント)』で脳はどう変化するのか?
参考)連載 実は危ない! その育児が子どもの脳を変形させる 等から要約
①身体的マルトリートメント(体罰、直接的な子どもの身体への暴力)
叩(たた)く、殴る、蹴る、物で叩く、火傷(やけど)を負わせるといったもののほか
溺れさせる、髪をつかむなど、外傷として残らない暴力もある
・過度な体罰は感情や思考のコントロールを司る「前頭前野」の一部を萎縮させる。犯罪抑制力に関わる部位でもあるため、問題行動を起こす確率も高くなり、体罰を繰り返し受けていると、非行に走りやすくなる
・そのほかにも、集中力や意思決定、共感などと関係の深い前頭葉の「前帯状回」の萎縮も引き起こす
・また脳の一番外側に広がる大脳皮質の「感覚野」へ痛みを伝えるための神経回路が細くなり痛みに対して鈍感になるように脳を変形させる
②心理的マルトリートメント(言葉の暴力子どもに「自分はダメな人間だ」という強い自己否定の気持ちを植え付ける)
「あんたはバカだ」「何をやらせてもダメな子ね」「生まなければ良かった」などの蔑み、常に兄弟や友達と比較し、差別や罵倒、脅し、存在否定の言葉を投げかけ続ける
・長期間にわたって暴言にさらされた子どもの脳は、側頭部にある「聴覚野」の一部が肥大し、聞こえや会話、コミュニケーションがうまくできなくなる。言葉の理解力などが低下し、心因性難聴になりやすくなる
③面前DV(子どもの前、あるいは子どもの耳に届く場所で家庭内暴力が行われること)
両親間のDVや、激しい罵り合いや暴力を見ていると、大脳後方の「視覚野」が萎縮し、他人の表情を読めず、対人関係がうまくいかなくなる
・「視覚野」の容積減少は視覚的な記憶システムの機能の低下が関係し、目から入る情報を最初にキャッチする力・記憶する力が弱くなり、知能・学習能力が低下する可能性が指摘されている
④ネグレクト(必要な養育を子どもに与えないで放置すること)
食事をさせない、お風呂に入れない、服を着替えさせないなどのほか、わが子が泣いているのにゲームに夢中でほったらかしにする、スキンシップをしないといった、子どもの要求にきちんと応えてあげない行為
・ネグレクトは『愛着障害』につながり、喜びや快楽を生み出す「線条体」の働きを弱め、左右の脳をつなぐ「脳梁」を萎縮・変形させる。ーネグレクトを経験したアカゲザルの子どもは集団行動ができなくなったり、攻撃的になることも報告されている
⑤性的マルトリートメント(身体に触るといった接触、性行為の強要のほか、性器を見せる、ポルノグラフィーを見せる、裸の写真を撮る、性行為を見せるといった行為)
・性的マルトリートメントを受けると後頭葉の「視覚野」が萎縮する
特に容積の減少が目立つ部位は、視覚野の中でも顔の認知などに関わる「紡錘状回」で、「視覚野」の容積減少は視覚的な記憶システムの機能の低下が関係している
参考図)躾(しつけ)と虐待の境界線 | かすみがうら市公式ホームページ
*脳の変形は、ストレスに耐えるための自己防衛反応
子どもの脳の形が変わるのは「外部からのストレスに耐えられるように情報量を減らす」ための脳の『防衛反応』だと考えられている
これまでの脳の研究からストレスの影響を最も受けやすい場所が
脳中央にある「海馬」と「扁桃体」そして脳前方の「前頭葉」で
大人であっても会社でパワハラを受けたり、大きなストレスを受けたりすると
こころの調子を崩してうつ病や身体的不調に陥るのも、ストレスが
「海馬」や「扁桃体」を刺激して脳にダメージを与えるためであることがわかっている
感情の中枢である扁桃体は、刺激を受けるとストレスホルモン(コルチゾール)
を分泌するよう副腎皮質に指令を出し
ストレスがかかり続けて、視床下部・下垂体・副腎系や自律神経系の亢進が続くと
うつ病や不安障害などの精神疾患から、胃痛や食欲不振などの心身症まで、様々な障害が起きてくる
ストレスと関連する主な精神・身体疾患
うつ病・不安障害(パニック障害、不安障害、PTSDなど)
適応障害・依存症(アルコール、薬物、自傷)・心身症・身体表現性障害
参考)
そして、それは脳の成長期にある子供はなおさらで
過度のマルトリートメントを受けると、扁桃体はしょっちゅう興奮を起こして
大量のストレスホルモンが脳の中に放出され、それが脳に重大な傷を負わせてしまう
この状況を回避するために
脳が選んだ方法が、外部から入ってくる情報量を減らすこと
つまり《変形することで苦痛に適応し、生き延びるための苦肉の策》
・見たくないものを見続けなくていいように「視覚野」が萎縮する
・痛みを感知したり、起こっていることを認識したりしなくていいように「前頭前野」が萎縮する
・聞きたくないことを聞かなくていいように「聴覚野」が肥大し、音が拾えない状態に自らを変えてしまう
これらは、すべて脳が自らを守ろうとする自己防衛反応と言ってよい
*虐待と『防衛機制』
子どもの時の『不適切な養育(マルトリートメント)』が【脳の変形】となり
それが、大人になっても精神的な傷となって残る。それが精神疾患につながる
虐待されている子供は、自分が虐待されるとは考えない
わからない。その中で、自分の存在を正当化しようと認知を改変する
「親にそうされるのは自分が悪いからだ」
「親は自分を愛しているんだ」と考え
「親の期待や願いに応えるよい子になればいい」
「親の期待に添わない自分はダメだ」
「このままの自分ではダメだ」という『自己否定』の気持ちが強くなる
『ありのままの自分』の否定
↓
『親の期待する良い子』←分裂→『期待はずれの悪い子』
褒められる・愛される 怒られる・叩かれる
勝利・成功・優秀 敗北・失敗・劣等
従順・規則ルールを守る 反抗・規則ルールを破る
そして虐待が続くと
親に「また叩かれる」「見捨てられる」という『不安・恐怖』で
常に高い緊張(ストレス)を強いられ
そこでは集中力や他への興味や新しいことに挑戦する意欲が失われ
脳の抑制機能の発達が阻害され
それが『学力低下・生活の乱れ・非行・依存症』に結びついてくる
そこには
『不安・恐怖・ストレス・不全感・辛さ・苦痛』を低減・解消しようとする
防衛機制(心理的メカニズム)の働きがある
・分裂:良い(褒められる・嬉しい)自分と、悪い(叩かれる・苦しい)自分に分裂する
・隔離(分離):辛い感情を切り離す。感情の麻痺。他人事
・解離:辛い自分を切り離す。記憶喪失。多重人格
・否認:辛い自分を認識できない。事実を認めない
・抑圧:辛い感情や記憶を無意識領域に押し込む
そしてこれが進むと⋯
『思考』と『感情・行動』が【分離】する
理性が本能(感情・行動)の暴走をコントロールできなくなる
=脳の抑制機能の低下・損傷
↓
相手の感情(苦しみ・痛さ)を理解できない
共感能力・自省能力・想像能力が育たない
↓
自分が悪いこと(行動)をしているという認識がないだから虐待や体罰やイジメやパワハラや誹謗中傷や犯罪(行動依存症)を繰り返す
常に誰か(子供・弱者)を見下し、攻撃せずにはいられない【依存症】
マウントを取らずにはいられない
こうして
虐待や体罰や暴力の連鎖が起こる
*虐待の連鎖の仕組み【認知的不協和理論】
人は自分の行動(存在)を正当化するように認知を変更する【認知的不協和理論】
それは子供にとっても同じで
親・大人との絶対的な関係の中で
親・大人
虐待・体罰↓過干渉・ネグレクト
子ども(自分)
自分の存在・行動(=虐待されている自分)を正当化しようとする圧力が働く
「今のままではダメだ」「親は自分の為にやっているんだ」
「親の期待に応えたい、褒められたい、認められたい」という思いが全てとなり
権力構造・家長制男尊女卑・権力のピラミッド構造の中で
虐待・体罰・暴力を正当化するように認知を改変していく=認知の歪み
「弱者は強者に従うのは当然」だという認識の中で
自分は『優秀・強者・多数派』ということを強調しようと認知を改変していく
子供は常に強者や多数派につくことで、そして弱者や少数者をいじめることで
万能感・優越感・安心感を得ようとする=【いじめの構図】
そして、そのまま大人になり、独裁者を支持するようになる
個性や自主性を尊重できない、暴力的な親や社会に育てられた子供は
他者の個性や自主性を尊重できない、暴力的な大人となる
管理・強制・競争・体罰のストレス社会の中で脳の抑制機能が成長できず
自我が分裂し『悪い自分・辛い自分・弱い自分』を認識できず
自分のやっていること(行動・本能・悪・罪)が認識できず
反省し、欲望の暴走・膨張を抑制することができず
弱者や少数者や反対者の気持ちを理解できない
押し付けられた価値観、規則ルールの絶対化
道徳・習慣・管理・競争・体罰・善悪二元論・全か無か思考など
ピラミッド支配構造(権力構造・差別構造・虐待構造)を絶対化し
その中で自分の存在価値を見出そうとする
常に「私は良い子です」「強い・正義・優秀・多数派」と誇示するように
権力者や強者に媚びへつらい、忖度し
周りの批判攻撃から『親分』を守ることに、自分の存在意義を見出す
親分に気に入られようと、改竄・隠蔽・虚偽を繰り返し
保身・利権に目が眩み、周りが見えなくなる
『親分』から寵愛を受けることで快感(ドーパミン)を得て
優越感や万能感を得て、鬱屈や不全感や劣等感を払拭しようとする